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小説 こにゃん日記

小説 こにゃん日記

act.20『あれはおいらのお家だ』

     『あれはおいらのお家だ!』

 『トラ公って誰なの』
おいらが聞くと、キジ猫は耳を伏せ、片方しかない目を細めて鼻にしわを寄せた。
 『おれを片目にした奴だよ』
おいらはびっくりした。
 犬より強いボス猫を倒すなんて、いったいどんな猫なんだろう?
 『じゃあ行くか。』
キジ猫はひとつ伸びをすると立ち上がった。
ぶち猫は用心深そうに、しっぽを水平にしながらその後に続いた。

おいらは、ぶち猫の少し後ろを付いていきながら、ちらちらとキジ猫を見た。
キジ猫の体は、よく見ると傷だらけだった。
背中にもところどころ禿があったし、耳も片方の先がちぎれていた。
 トラ公にやられたんだろうか?
 『おい・・・ここからがトラ公の縄張りだ。お前。どこか見覚えがないか?』
おいらは顔を上げた。空気のにおいを嗅いで見た。
確かに、嗅いだことのある匂いが混ざっているようだった。
 これがトラ公の匂いかな?
でも、その匂いは嫌な気はしなかった。
なんだかうきうきするような、恥ずかしいような、懐かしいような匂いだ。
 ママとパパと桃がいるところにある匂いだからかな?
 『こっちです。』
今度は、ぶち猫が先頭に立って歩いた。

おいら達は時にはブロック塀をわたり、木をよじ登り、人の家の庭を通り進んでいった。
おいらが登れないようなところは、キジ猫が、おいらの首根っこをくわえて、運んで行ってくれた。
時々、他の猫にバッタリあったりしたけど、お互い知らん振りをした。
たまに眼を合わせてくる猫も、キジ猫がひとにらみすると、こそこそとあとずさって、必死に顔を洗って気のないふりをした。
 『あっ!』
ふと上を見上げると、家々が並んだ先に、ちらりと、見覚えのある青い屋根が光っていた。
ベランダにゆれてるのは緑のカーテンに見える。
 あれはおいらのお家だ!
おいらは転がるように駆け出した。
 『危ない!』
ぶち猫が叫び、おいらは強い力でぐいっと引き戻された。
目の前を赤い車がブオオーーーッと走りすぎる。
おいらは排ガスまみれになって咳き込んだ。
おめめが痛くてしぱしぱしたので、おいらは前足で眼をこすっていた。
 『トラ・・・。』
キジ猫がつぶやいた。
道路の向こうに、一匹の猫の姿が見えた。


act.21『トラ猫』 に続く






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